元気も涙もよくわからなくなった代わりに、子どもがずっと居座ってる。頼りなくてこころぼそい。子どもはわたしをぜんぜん寄せつけない。「どうでもいい」とか「くだらない」とか「わかんない」とか。考えないくせに母を楽しませる。父がふと笑う。わたしの出る幕がなくなる。 「年齢に比べて言動が幼い印象」。母に伝えると、昔はその逆だったと言われた。嘘つきで悲しくて怒られて怒ってばかりの「大人っぽい子」? いまは「素直」で「正直」だ。ほんとうかな。罪悪感と不安がずっとあるのに。 母に「ちびちゃん」「ちびた」と呼ばれるたび、そうだよ、わたしはそこにいたんだよとおもう。甘えるたび、部屋でうずくまったわたしが信じられない顔でこちらをみる。
投稿
5月, 2020の投稿を表示しています
- リンクを取得
- ×
- メール
- 他のアプリ
海を舐めた。 ピンクネイビーグレーの道路をみつけに行きたくて飛び出たのに、いつのまにかお母さんを巻き込んでオレンジ色のつやつやを追いかけていた。階段はあちこち欠けていたけど、それもピンクに発光しているので問題なく駆け上がった。 そういえば家の階段も、机の足も、プルキニエ現象や卵色の西日のなかでは、障害にならなかったような気がする。そんなことをいって転けたらおもしろいな。だって、ただじっとしていただけかもしれないし。 オレンジのつやつやを目の前に持ってきて安心したわたしは岩のうえに座って、みえなくなっていく太陽のてらてらと、あち、こち、ぱ、ぱ、ら、はー、順番のない(あるのかも知らないけどわたしにはわからない。とは書かない。順番のことを理解したいとはおもわない)海水の騒ぎ。 特別なんかじゃないとわかってる。夜もそうしてる。でも波は眠たくならない。ぱ、ぱ、ぷ、はあ。
- リンクを取得
- ×
- メール
- 他のアプリ
スイカを食べた。じゅうじゅうわたしの口に広がる。 スイカ、わたしがきみのことをこんなに愛おしくおもっているのは、きみを食べられるからなんだね。たっぷり。水っぽい、草の、甘い匂い。ぼくの嫌いだった蔦の匂いがする。鼻の先でそこにいるのかを確認しようとして、つんと触れる。だいすきだ。 毎日虫をみつける。昨日、このあいだ、みた虫のことをたくさん書きたい。知らせたい。振り返って、きみがいたらいいのに。 茶色い足。橙のテントウムシ。中身の出てしまった大きな毛虫。いつもちがう虫に会うんだよ。ぜんぶはおしえられないね。 きみにあと何回会えるんだろう? 月がたんたんとうえにいく。たんたんと自転するわたし。 フリージア。バッタみたいな、コオロギみたいな、黄緑色の虫。