先生(ほんとはこんなふうに呼びたくないのだ。だけどいまはこれしかおもいつかない)から、写真が送られてきた。晴れた日の、透きとおった夕空の写真。桃色と水色と金色がまじった、波の色。浸かったら、あまいお酒になっちゃいそう。 ビデオも送られてきて、誰かの口笛が、音にはいっていた。あいかわらず、おおげさなのだ。 先生は、携帯写真家らしい。今日は三国祭りだったみたいで、祭りと先生は、ひっついたまんまだ。
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右ももに虫がとまっていた。よくできた水滴みたいに、ぷっくりとちいさい。藻と石と宇宙がまじったような背中と、茶色くて繊細な足。生きもの静けさをもっていた。これまでにみた虫のなかで、いちばんだとおもった。 だから、講義がはじまるまでの10分間、左手に虫をのせて、とんでもなく走った。名前を教えてもらいたかったから。どうしようもなく、同級生に見せるけど、先生たちにもおすそわけしたくて、でも、誰もいないのだ。 きょうの晴れは出来がよくて、走るのに最適。 チャイムが鳴って、木のうえに虫をおいた。虫はさいごに、おしりから、ちいさな水滴をだした。透明で、びっくりするほど可憐だった。 おかあさんがもうすぐ死ぬ夢をみる。抱きついた視界のはしに、すいかがあった。 さっきの虫は、爽楽に似ていたな。