久しぶりにブログを数日分読み返した。
以下、居候先であった暴力について詳細に書くので、読者は気をつけてほしい。フラッシュバックがあるひとは読まないほうがいいと思う。


ある日、ぼくには些細に思える出来事がきっかけで、居候先の住人があるひとりの住人に正座と反省を求めた。詳細はあまり覚えていない。ただ正座する住人を見下げる住人が、「今後のことをゆっくり考える」と言ったことは覚えている。ぼくはふたりだけにしてはいけないと自分に釘を刺してその場に居たんだけど、いつのまにか恐ろしくて体が動かなくなっていた。ウロウロしながら話を聞いていた一方の住人がそれを咎められ、大きな音を立てて正座をする。住人が「どうやってぼくの心を労わってくれるの」と悲しげに、だって泣きながら問う。正座する住人は「痛いです、痛いです」「わかりません」「思いつきません」と言う。ぼくは暴力を、止めなければならない。でも止めたらぼくは泣いている住人を、「ひとりぼっち」にしてしまう。そうやって何度も「かばう」ことを咎められてきた。それに怖い。
ぼくは崩壊した。大きな声で何もかも、フィルターなんてないみたいに口から脳内の言葉が全部出ていく。「こわいよーこわいよーいやだよーかわいそうだよ。かわいそう。いやだよ」憤っていた住人がやさしく困った声で「どうしたの、ももちゃん」と言う。ぼくはさらにエスカレートする「こわいこわいこわい、どうしたのももちゃん、どうしたの、かわいそう、かわいそうだよ、いやだよ、うるさい!うるさいんだおまえは。やめろ!しっかりしろ!ごめんね帰りたい、帰りたいよお家に帰りたい」住人は「そらこんなことになったら、ももも一人の家に帰りたくなるよね。誰のせい?誰のせい、なあ」と正座して俯き固まる住人に言葉を落とす。ぼくは「こわいこわいこわいこわい、いやだ、へんだへんだ、うるさい!黙れ、こんなときにぼくが、ぼくがなんとかしないと、クソ、うるさい、だまれ!だまれ」と泣き叫んで、いつのまにか、さっきまで住人を罵っていた住人がぼくを抱きしめていた。ぼくはずっと何かを叫んでいた。「おまえのせいだ、ぼくのせいで、ぼくのせいでもっとはやく、はやくこうならなかったんだぼくが、ぼくがこどもだから、ぼくがなんとかしてあげなきゃなのに、ぼくが、くそ、くそ!」腕を噛もうとすると、住人がそれを止める。「ももちゃん。もも」と何度も呼びかけられる。かわいそうに、と言われる。住人が正座して固まったままの住人に「あんたはこういうとき、この子をなんとかしてあげようって思わんの」と言うから、住人は振り返って正座したまま、痺れる足を引きずって「だいじょうぶだよ」と抑揚をつけず、どこにいるのかわからない瞳でぼくをみる。ぼくは「こわいこわいこわい、いやだ、へんだ、正座いやだ、痛いのはいやだ、いやだよ」と叫ぶ。ぼくを抱きしめている住人が、もうひとりの住人に「いやなんだって」というと正座はほどかれた。ぼくは少しほっとした。言葉はずっと口から出ていた。なんて言っていたのかは覚えていない。「しっかりしろ!」と言っていたな。
次の日の朝、まだ悲しさが抜けきらないぼくは、きのうぼくを抱きしめてくれた住人が、起きる気配を自分の部屋で感じた。「ももちゃん」と呼ばれて住人の寝室に行く。住人がぼくを抱きしめる。住人の目はうるんでいた。「泣かないで」とぼくにいう。

今までなら、居候先で暴力があったとき、ぼくは自室に隠れて、息を殺して泣いていた。自室で体を固めて、天井の白色に吸い込まれるのを待っていた。
だけど、あの日ぼくは二人の前で崩壊した。二人があんなぼくをみたのは初めてだろう。ぼくが二人の加害と被害をみて、どんなに辛いのか、何に耐えて何をぼくに呪っているのか、少しは伝わったのかもしれない。

居候日記を読み返すと、しあわせに動揺するような、それが割れる瞬間に怯えているような、そんな自分が透けてみえる。おまえはよくがんばった。