居候21日目。
夜ご飯をたらふく食べて、1時間ほどしてから、住人のひとりと「虫の音にまみれに」行った。風光もいっしょに行く予定だったんだけど、ソファの下の影に頭をおいて眠っていたので、ふたりで散歩に出かけた。つないだ手があたたかい。ひんひん、つんつん、うぅうぅと聴こえる虫の声のそばを歩いていると、住人がふいに「鈴虫いたね」という。ほんとは止まって耳を澄ませたいんだけど、住人はぼくの手を握って先へ先へと歩むから、ぼくも、とっとっとっと着いていく。奥のほう、小さいけれどたしかに、ほかの音より長く響く鈴虫の声が聴こえた。
ぼくはこれがしたかった。夕暮れなんかじゃない、もっと暗くて恐ろしい夜中にふたりで外に出て、車に乗らず、歩くこと。手をつないで。このひとと、ぼくはそれがしたかった。
帰りたくないと弱くしぶるわたしに、住人は歩みを止めず家のベランダに誘う。2階のベランダにあがると、虫の音と星と雲がゆらめいていた。ぼくは床に寝転がって、前をみる。カーテンごしのそよ風みたいに静かな風がぼくの腹や足を撫ぜていく。目的のない動き。ぼくはうれしい、うれしいと何度も呟く。住人が「おいで」とぼくを呼んで、ぼくたちは黄色いアイスを食べる。「きれいな色だね」という住人が、前、ふたりで食べた黄色いスイカもきれいだといっていたことを思い出す。