居候35日目。最近、眠ると恐ろしい夢ばかりみる。きょうの昼過ぎなんて、夢のなかでも怖い夢をみていた。どんな夢だったかは覚えていない。ただ夢から覚めた夢のなかの自分が、申し訳ない気持ちをすぐに飛ばして居候先の住人たちに「いっしょに眠って」と言えていたのはほっとした。
夜、スヌーピーの形をしたかき氷機でかき氷を作る。スヌーピーの頭を取って首のところに氷をいくつか入れて頭をまた被せ、上から頭を押すと空洞になったお腹のところに削れた氷が落ちてくる。このかき氷機は居候先で25年くらい使い続けていて、まだ壊れる気配はない。ただ、削っているあいだの音があまりにうるさいので、居候先の住人は今年でそのかき氷機を「引退」させようと言っていた。ぼくとしてはまだ居候先にあってほしい道具だったから、かき氷機を捨てようとしていた住人に「きょう使ってみたけど、まだいけると思うな。来年まただして使ったときにやっぱりダメだと思ったら捨てようよ」と提案した。すると住人はなぜかうれしそうに「このこ笑ってるよ」という。かき氷機が笑ってると言ってるのだ。ぼくは自分のいやな癖(モノに感情があることが許容できないから、その考えを他人に押し拡げる)で「笑ってないよ」と返すと、住人は「笑ってるよ。泣きながら笑ってるよ」と繰り返し言う。ぼくも「元からこういう顔なんじゃないの」と食い下がり、住人はさらに「ちがうよ、ほっとしてるんだよ」と言う。
オリックスが優勝して、喜んでいる住人とピンポンをして遊んだ。