居候12日目。今日の夕方に墓参りに行くと昨日から聞いていたので、体力温存のために15時までだいたい寝て過ごした。
墓参りに行くということは、居候先の住人の親にも会うということだ。あのひとたちは会うたびに、おれに「いま何してる」と訊く。何度も訊かれてきたので、その言葉で「仕事をしているのか、しているとしたらどんな仕事なのか」を訊かれてるのだとわかる。きょうはその質問に居候先の住人にもらった助言の通りに答えた。うそをつくとつらくなるおれのためを思ってか、うそにならないような答えを住人は考えてくれた。それでも訊かれること自体がいやだった。おれより年下のいとこが、どっかからのスカウトを断って第一志望先に就職したという話が聞こえる。スイカを買ってきたよ、と言われると腕をあげて喜んでしまう。どんな役割も被りたくない、スイカも捨てて逃げたい。やっぱりスイカは持っていってもいい。

外で夕ご飯を食べて、家へと運ばれる車のなかで、空に月を見つけた。車を運転している住人が月を見て「朧月どころじゃない」という。わたしが「かすかすやね」と同調すると、「掠れ月」と聞こえた。オレンジ色の蛍光ペンをぬったような色の掠れ月は名前をつけられるとすぐに雲をはがして、くっきりとしてしまった。