瓜割の滝から橋に向かって薄黄色の筒(竹かな)が滝の水を運んでいた。その水を受けようと手を伸ばすヒトがいなくても、細い筒から水は川へ落ち続けていた。
いまもきっと流れている。ヒノキの葉も幹も色を潜める森のなか、はじまりも終わりもない水だけがくっきりと黒い。月の細い今夜はきっと光もほとんど届かない。ただぬるぬると誰にも触れられずに岩に砕けても形を持たない滝の水はいつまでも流れてゆくんだ。
筒から水を受けて飲むと甘みを感じたので、母にそう伝えた。私が足場の石から足を踏み外さないように注意を促すと、母は私よりいっそう川面に近い石にしっかりと右足を置いた。それから母は二度三度、盃のようにした両手に滝の水を掬っては飲んだ。その間、私は母の新しいスニーカーに滝の水がこぼれて染みこまないか心配で、母の足元をみていた。染み込んでも染み込んだことを確認するぐらいしかしなかっただろうけど。とにかく危なかったのは1回目だけで、2、3回目以降に掬った水は母の足元から10センチ弱は離れていた。母は滝の水を飲むのが上手かった。母は透明に濡れた自分の口の周りをやわらかそうな薄いハンカチでしっかり拭いた。