何かがすごく悲しくて、洗濯物を畳んだり風光の寝具を西日に当てたりしている間、ずっとそのことを考えていた。何かが悲しい。
これは書くことでしか落ち着かせられないとおもって、10分くらい前に風光との散歩に持っていくと決意して(あなたは決意せずに持ち物を増やせるだろうか)ズボンの左ポケットに突っ込んだiPhoneを左手で掴んで右手に持ち替えながら、ダイニングテーブルの自分の席に座った。回転する椅子の座面に両の足の裏をのせて、机より近づいた左膝に両手を添えたiPhoneをのせる。顔認証を突破して現れたホーム画面の前で人差し指をくるくると2週半してから、何のためにiPhoneを開いたのか思い出す。お気に入りにしてある「Blogger」のアイコンをタップして歯磨きで口に溜まった泡を洗面台にだらしなく落とすように画面のキーボードにぼたぼた触る。「顔認証を突破して」まで書いたところで風光が右下からこちらをみて鳴いた。夕方の散歩だ。iPhoneを持たずに風光と家を出て、待ったり歩いたりしていると、さっきまで書いていたブログにかじってもいない現象学と3年前に買って前半の前半の前半まで読んだきりのサルトルの『嘔吐』を感じ出していて、げっと思い留まる。わたしの脳内がわたしの編集なしに書き出されなくてよかったと思いながら、でもほんとにそうだと言えるだろうかとふざけると、遊びのつもりが不安になってきて、まあそんな訳ないから助かるんだけどとぼやぼや終わらせる。