夢のなかで小山田壮平の新しいアルバムの情報が発表されてた。タイトルはたぶん『おばけでいっぱい』か『みんなおばけ』。アルバムとか、シングルとか、特典付きのとか、いろいろ展開があったけど、表紙はどれも、ジャングルジムの升目をオレンジ色や赤色や黄色で強く塗りつぶしたような、立体的で輪郭の揺らいだ絵だった。
金曜日のお昼過ぎ、おかあさんと駄菓子屋さんに行った。灰色のカーテンがずたずたに裂けたちいさな建物のまえに車を停めて、そこから少し歩いた。駄菓子屋さんの引き戸はすべて木で縁取られた透明なガラスで、きれいに並べられたお菓子のパッケージの色が調和しないまま道路にはみでていた。
おかあさんの後に続いてお店に入り、「こんにちは」と挨拶をして、裸眼の目をお菓子のうえへ滑らせる。ガラス戸越しでなくてもお菓子はツヤツヤと光ったままで、種類も数も多かった。棚の向こうの襖から人が出てきて何か挨拶をしてくれた。
わたしはマスカットのぷっちょ、おかあさんはパイの実の苺味を選んでそれぞれお金を払った。お店の人はパイの実をみて「これはちょっと高いけどいいですか」、おかあさんは「いいですよ」、「200円です」、と言っていたけど、コンビニで買うよりいくらか安いとおもったから、お店を出てからその夜眠りにつくまでのあいだ、おかあさんにそのことを3回は言ってしまった。わたしのぷっちょも「100円」だったから、コンビニより安かった。
お金を払って「ありがとうございます」とぷっちょを受け取ると、お店の人は「おおきに」と言ってくれた。
車に戻るまでの短いお散歩のあいだずっと、河沿いの匂いがふーうーゆーとわたしと、きっとおかあさんにも流れてきた。それといっしょに、河にみつけたたくさんの水鳥の声、「アーアー」。おだやかだね、天敵がいないんだろうね。相槌をうってくれていたおかあさんは、わたしと違う人間で歩いていた。
車に乗って河のうえの橋を渡り、わたしが駄菓子屋さんを驚きながら褒めてるとき、「おおきにって言ってた」ことを、もちろんおかあさんにも伝えた。