夕陽で黄色くなった壁におかあさんとぼくの影がうつっていた。
砂と水で作ってもできそうな影だった。おかあさんが勢いよく吸って空にしたジュースの紙パックも、玄関にかけられた帽子も。
壁には触れられなかった。
いつか触れられなくなるのだとわかった。
いま触れられるのかさえわからなくなった。
それでも、波に浮かぶオレンジの光を、桃色から紫色に変わっていく空を、階段の踊り場でゆらゆら歌うわたしを、みていたのはおかあさんだ。

テープの戻る音がして、自転車の車輪がカラカラ回る。