ひさしぶりに会った友だちは、わたしのふくらはぎの裏に、細かい砂を少しずつ落としてくれた。
「わたしとか、風子の毛がさらさらのときみたいに、さらさらの砂だよ」というと、友だちはわたしの髪を触らずに、わたしの掴んだ砂と少し離れたところの砂を持ち上げて、掌からこぼした。「わかる」。
ざわめき、人の動きを排除してしまうカメラで友だちを撮るのがいやだった。だから砂浜に寝そべって、小さなクロッキー帳に5Bか4Bの鉛筆で、海を歩く友だちをぐりぐりと描いていた。
そのあいだ友だちはわたしの左前に、波のなかで見つけた貝殻をしとしとと置いていった。
わたしはこのひとに会うまえから生きていたけど、このひとがわたしのガラスにヒビを入れてくれたんだな。

ゆるい下り道を自転車で駆け抜けた。友だちの最速はわたしの最速より速い。
海が右の視野にたくさん映ると友だちは減速して振り返り、「まじでいいなあ」と叫んだ。透明でも空っぽでもないけど、たしかに友だちからみえた世界をほんの少しでも表したそのことばが、わたしはうれしくて、動揺した。わたしのうたっていた「スランプは底なし」がますますこの世界と乖離するからおかしくて笑った。