わたしと母と父と次兄の海開きをした。
浮き輪を三つ、スイカのビニールボールをひとつ車に積んで、夕闇の海に出かけていった。
海は藍色。
波は穏やかで、浮き輪に座るようにして海に浮かぶ次兄をやさしく揺らしていた。父がスイカのビニールボールを抱えて「ラッコみたい」に浮かぶ。母は口数の少ないわたしに一度「げんき?」(「げんきだよ!」)と訊いて、兄の浮き輪をたまに突いたり押したりしてかまっていた。父の真似をしたわたしに、父が「ラッコみたい」と言う。
すべて、やわらかな海水のなかで起きたこと。体温と海水温が馴染んでゆく。混ざり合うことができたらいいのに。触れ合って、揺らされるだけのわたしたち。
ゴーグルをつけて潜ってみると、海底に小さな白色がいくつもみえた。砂を被っていたり、さっくり刺さっていたりしてるんだろう。
水切りによさそうな石も二つ沈んでいた。あれは何色だったんだろう。水深170センチメートルくらいのところだったから、拾い上げて確かめてみてもよかったんだけど、しなかった。ひとりになりたくなかった。