20時から5分間だけ、花火が打ち上げられた。家からみえない花火を目指して、わたしと母と次兄は外に出た。
母に「走る?」ときいたら「走る」と許可が出たので、わたしは背中を押されたみたいに、暗い坂道を駆け降りた。小さな段差につまづいて転ばないように、わざとガタついた歩道を行く。
母が暗い道を怖がって歩けなくなっていないか心配になって振り返ると、遠くから母と次兄が並んで歩いて来るのがみえた。
あのとき、わたしたちの目的はきっといっしょだった。生きているとこういうことが起きるんだ。
安心して、花火を捕まえるためにまた坂道を駆け下りていく。
緑色のファミリーマートまで下ると、ついに花火が全部みえた。
もっと空の近くでみたくなって、ファミリーマートの裏にある葬式屋の高台に登る。だけど登りきった頃にはもう、花火は上がらなくなっていた。
濃紺の空が背景から夜空に変わっていく。
花火は終わったのに、母と次兄はわたしのところまで降りてきてくれた。
早歩きの母と口数の多い次兄といっしょに、行きより明るく感じる帰り道を帰った。