いいにおいの毛布に顔をあてて、夏のことをおもう。正確には、夏の、濃い影のこと。

今朝、おかあさんと(それぞれべつの)自転車にのって、パン屋さんにいった。おかあさんの後ろにつく。追いぬかさないよう気をつけなきゃとおもっていたけど、おかあさんはぼくがそうしようとしないかぎり、追いぬかされないないような速さで走っていた。
パン屋さんで、おかあさんはアップルパイとカレーパンを、ぼくはクロワッサンを選ぶ。焼けた茶色が、並んで光っていた。あれは、卵白のせいなんだよって、小学生のぼくがいう。復習のため。いつか、何か、ぴかぴかにするため。
運動公園のベンチで、それぞれのパンをかじった。桜のもこもこは、止まるとみえなくなる。木は、触れると痛い。見上げるなら、通りすぎていたいのだ。

ベランダのある部屋にうつった。前より外で、眠りやすくなる。うれしいな。本だって読める。音楽も聴かれる。外気で冷えた布団をひきずって、また、部屋に帰る。

みさとさんのことをおもう。みさとさんだけがつれてる、影のこと。そこにいること。それを、揺らす風のこと。